「美ら海振興会」会長 松井さとしさん取材レポート(2013/10/30)

[ 取材レポート ]

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私が主催している「エコ・自然塾」では、その参加料の一部を沖縄でサンゴ保全のために活動されているNPO法人「美ら海振興会」へ寄付させていただいております。これは「エコ・自然塾」に来てもらうことで関心を持ちつつ、社会貢献の一環という意味合いもあります。
さて今回、「美ら海振興会」の会長、松井さとしさんにお話をうかがうことが出来ました。松井さんは沖縄の那覇でシーマックスダイビングクラブ沖縄というダイビング・ショップを経営するかたわらそのような団体の会長も務めております。団体設立の経緯、沖縄の今と昔など内地の人では知り得ないことも話してもらっています。また今では「美ら海振興会」は一般のお客さん(ダイバー)にも参加してもらい、サンゴの植え付けなどの活動もおこなっています。


透明度という海全体の綺麗さが失われていた沖縄

−−松井さんはダイビング・インストラクターとしても経験豊富ですが、そもそもダイビングを始めたキッカケは何でしょうか?
M:まだ私が子供の頃、近所に老舗のダイビング・ショップがあって、両親がそこのオーナーと知り合いでした。両親レベルの話しのなかで「子供にもやらせてみたら?」となったのです。それで始めたのが最初です。だから自分から率先して始めたというわけではないんですよ(笑)。

−−そんな子供の頃と今とではだいぶ沖縄の海も変わっているのでしょうね?
M:ひと言で言うと違ってきています。魚の数が減っているとか、サンゴの数も減っているとか細かいところの違いも色々とありますが、全体的にみて透明度というものが悪くなっています。これは沖縄本島ならば生活排水の問題もあるでしょうし、ゴミの問題もあると思います。
 ビーチ・ダイビング(ダイビングにはボートでポイントまで行って潜るパターンと、ビーチから海に入るパターンがある)のできる砂辺海岸も昔は平均して透明度は平均して20mぐらいありました。良いときは30〜40mぐらいありました。しかし今では10mぐらいまで落ちています。

−−松井さん自身がサンゴを最初に見た時の印象を教えてもらえますか?
M:最初にダイビングやったときはサンゴの認識はなく、まったくその存在にも意識しませんでしたね。ひとつひとつのサンゴが綺麗と考えるよりも「水中ってこんなに綺麗なんだな」という海の中全体の美しさに驚きました。

−−ところでサンゴ保全のために活動されているNPO法人「美ら海振興会」設立の経緯を教えていただけませんでしょうか?
M:15年ぐらい前です。地元出身のダイビング・ショップの人たちと、「ダイバーとして何かできないか?」という話しになり、それで団体を作ることにしました。最初はビーチの清掃とかそういうところから始めました。

−−松井さん自身ダイビング・ショップを経営しながらこういうサンゴ保全の団体を作って活動するということは大変ではないですか?
M:みんな綺麗な沖縄の海を取り戻したいという気持ちは一緒ですので大変と感じたことはありません。NPOにするにあたって書類作って事務的な手続きも必要になりますが、初めからやりたかったことなので面倒くささもなかったです。
 ただスタートした頃のメンバーと、後から入ってきたメンバーとの温度差があります。最初からたずさわっている私たちは、それこそ透明度の高い時代の沖縄の海を知っています。最近になって沖縄でダイビングの仕事をするために来た若い人たちは「これが普通の沖縄の海」という認識がありますね。


サンゴを守るには時として行政の力も必要となる

−−「美ら海振興会」はサンゴ保全に動かれています。しかし沖縄は観光業が盛んで開発などが進んでいます。守るために動いていているのに開発されていくなんて、歯がゆくないでしょうか?
M:実はそういう異業種の人たちと話しをしても噛み合わないことはないんですよ。ホテル業界、建設業界としての一貫した意見を聞くことができます。私の個人的な意見ですがダイビング業界より、ホテル業界や建設業界はまとまりがあるように思えます。
 なぜまとまっているかと言えば、例えば沖縄でホテル業をやるには行政の許認可などがないとできないです。つまり行政が業界をまとめているからだと思います。でもダイビング業は別に行政の許認可や資格がなくても、誰でも明日からダイビング・ショップを経営することができてしまうんですね。サンゴや環境を保全するためにも、私たちの業界も行政などにまとめてもらいたいと思いますが、まだまだ私たちもまとまっていないので行政と真剣に話しする機会があっても、話半分でしか聞いてもらえない時もあります。

−−私が訪れるマーシャル諸島のダイビング・ショップでは、訪れるお客様全員にダイビングを始める前にサンゴのレクチャーをしたり、海の中ではサンゴに触れさせないようにグルーブ着用も禁止していたりします。
M:まとまりの問題から沖縄ではそういうのは難しいでしょうね。逆にそれをやられているところがうらやましいですし、ルールを浸透させていくためにも行政の力が必要になります。

−−私のように内地でサンゴの重要性を説いていく身とすれば、今後どのように説明していけばいいでしょうか?
M:まずは見てもらうことでしょうね。陸上の自然を見るには簡単にそこに行くことができます。ただサンゴは海の中にありますし、遠出しないと見られないというハードルの高さがあるので中々サンゴを身近なものと感じることができないですよね?

−−最近の人は海水浴にも行かなくなり、その延長でダイビング業界も低迷していますしね。
M:昔のダイビングのお客様は沖縄に来たらどっぷりダイビングに浸かっているという人が多かったです。しかし今は子供と一緒に家族旅行で来て、親もダイビングはするのですが、自分たちばかりではなく子供たちにもシュノーケルをやらせて、自然のなかの遊びを体験させる人が増えてきているのはいいことです。



わからないことばかりだが、誰かが動かないとという想い

−−松井さんはサンゴの観察から保全までをやられていますが、サンゴが無くなったら地球環境はどう危うくなるかという危機感はありますか?

M:こればかりはそうなってみないとわからないですよ(笑)。もしかしたらサンゴのない地球のほうが良いかも知れません。それは誰にもわかりません。
 また「サンゴが無くなってしまうことは良くない」と語っても、それを身近な危機と感じる人はいないと思います。そういう人たちに私たちが熱く語っても、聞く側にそういう姿勢がないと多分伝わらないでしょう。なくなってしまってから気付くのでしょうね。
 ではどうしたらサンゴを残せるのか?その明確な答えもなかなか出てこないと思います。ビーチのゴミ拾いとか身近にできることはたくさんありますが、それをやることによって根本的な解決になるかと言われてもそうでもないでしょう。ただそう言った地道な活動をすることで今のサンゴが残っているのかも知れないのです。
 沖縄だと基地問題もそうでしょうが、それぞれの立ち位置で見ればみな“正しい”と思います。それぞれが良かれと思ってやっていると思います。サンゴの植え付けも一時期日本サンゴ礁学会からは批判的な意見も出ていました。「(植え付けという人の手で増やすのではなく)自然のものはそのままにすべきだ」と。ただ十年ぐらい見ていて、何も変化がなかったので植え付けという人の手を借りるようになりました。

−−では最後の質問になります。「エコ・自然塾」とお付き合いを初めて約1年ですが、何か海の中の変化はありましたか?
M:さすがに1年では自然は変わりません。ただ数年前に植え付けをしたサンゴの周囲には魚たちが集まりだしています。なので数年単位で見守っていただけると嬉しいですね。