環境省「生物多様性戦略室」取材レポート(2014/2/7)

[ 取材レポート ]

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生物多様性と言う言葉をご存知ですか?最近マスコミとかでも取りあげられているこの言葉、その中身までを知っている人はいないのではないでしょうか?何となくその言葉から「生物が多様で・・・・・・」と漠然とした答え方しかできないのではないでしょうか?その言葉尻からは簡単そうに見えますが、実は深い意味を持ち、今後の環境保全のためにはなくてはならない言葉がこの生物多様性であります。我が国は現在、国連の生物多様性条約に締結し、生物多様性国歌戦略のもの、循環型社会形成推進基本法を制定し、持続可能な社会・開発を推し進めています。我が国にとっても生物多様性という言葉は外せないくらい重要なものになっています。
今回生物多様性を基本的なところから解説してもらうために環境省へ赴き、生物多様性地球戦略企画室・生物多様性施策推進室の河野通治さんへインタビューすることができました。


生物多様性という言葉が意味するもの

−−河野さんご自身のお仕事の内容をお聞かせください。
河野(以下K):今は環境省の中にある生物多様性地球戦略企画室と生物多様性施策推進室の室長補佐を併任しています。生物多様性地球戦略企画室では生物多様性国家戦略がうまく廻っているかを検証する仕事をしています。生物多様性施策推進室ではまさに生物多様性というものを、世の中にどう広めていくか考える仕事をしています。

−−検証するとおっしゃっていましたが、実際に生物多様性国家戦略(※1)がうまく廻っていかないことはありますか?
K:今の生物多様性国家戦略は2012年にできて、それから1年ちょっとが経過しました。今まさに進捗状況の点検をしている最中でして、パブリック・コメントという形でみなさんから意見も募集している最中でもあります。少しずつではありますが、生物多様性の取組は前進はしています。

−−ところで1993年に日本政府は生物多様性条約(※2)を締結しましたが、そもそも我が国が生物多様性条約を締結するに至った経緯を教えてください。
K:ワ
シントン条約やラムサール条約という特定の野生動物や生息地を保護する条約は過去にもありました。しかしそれだけでは自然を守るには十分ではないということもあり、自然全体を守り、そして守るだけではなく自然からの恵みを持続可能な形で受け続けることができるような枠組みを作ろうということでできたのが生物多様性条約です。
 1992年にブラジル・リオデジャネイロで行われた会議で地球温暖化と生物多様性に関する2つの条約ができたわけですが、それら両方が重要な課題だという世界的な大きな流れがあり、我が国も条約を締結したのではないかと思います。

−−では日本は生物多様性条約を結び、生物多様性国家戦略というのを政府が打ち立てていますが、今日本の社会も動きは変わりつつありますか?
K:それまでは生物多様性という言葉自体も社会には浸透していませんでした。しかしCOP10(※3)が名古屋で開催された時から徐々に知れ渡るようになりました。それとともに「三つのR」(※4)を初めとして、環境を守る活動をする人たちも増えてきたのではないかと思っています。

−−生物多様性って、その字面からなんとなく「生物が多くいる」と漠然と想像はできるのですが、深い所まで理解できる人はいませんよね?
K:生物多様性条約では、「生態系の多様性」「種の多様性」「遺伝子の多様性」(※5)三つのレベルでの多様性があると唱っています。わかりやすく説明しますと生物多様性とは単に多くの生物が存在するということではなく、いるべき場所にいるべき生物がいるという、生息環境と生物の関係も表しています。

−−ではもしこのまま生物多様性を無視していくと地球の環境は悪くなるのでしょうね?
K:生物というのは色々な生物同士が繋がり合って生きています。それがどこかで欠けるとバランスが崩れていくでしょう。すぐにその歪みが出てくるとは言えませんが、そのうちどこかで出てくることは確かでしょう。
 今回の生物多様性国家戦略では生物多様性の重要性を知ってもらうために、「生態系サービス」という言葉を用いて、我々人間が自然から色々な恵みを受けており、自然と人間の活動が繋がっているということを強調しています。

−−生物多様性のことに限らず、自然のことを今真剣に考えなければいけなくなったのは、開発しすぎた高度成長時代の反動とも言えるのでしょうか?
K:人口も減っていくなか、今存在する資産をどううまく使っていくか、どう社会を組み立てていくかが大きなテーマだと思います。


−−環境保全を進めることによって経済活動が遅れるのではないかと言う意見もありますが、それについてどう思われますか?

K:自然資本という言葉があるように、「自然」は経済社会の基盤のひとつとして重要なものだと思います。手当たり次第無計画に自然資本を使うのではなく、企業も将来を考えながら使って頂きたいですし、長い目で見れば環境保全を進めることは経済活動にとってマイナスではないと思っています。
 あと、環境に対して良いことをしている企業の商品を消費者が率先して選ぶことも大切だと思います。そうすることによって社会全体が良い方向に向かっていくと思います。それが消費者としての役割のひとつだと思います。


環境保全のために努力する企業


−−テレビのコマーシャルでも生物多様性という言葉を入れて宣伝しているのもありますよね?やはり徐々にこの言葉も一般的になりつつあるのでしょうね?

K:企業でもCSRの一貫として、あるいは本業の中に生物多様性を守るということを念頭に置いているところもあります。そう言う点で世の中変わりつつあるのだなと思います。

−−その本業のなかでやられている企業はどこでしょうか?
K:去年の環境白書でもコラムとして取り上げましたが「味の素」(※6)がそのひとつになります。「味の素」はカツオなどの水産資源の管理に力を入れています(国際水産資源研究所と共同)。また「中越パルプ」という会社は手が入らなくなった里山に多い竹を原料として、紙を作ることにより、里山管理に貢献しています。

−−しかし努力をしている企業の商品はスーパーとかに行っても他の商品に埋もれてなかなか目立ちませんよね?そのため努力している企業の商品を選ぶことが私たちの役割と言ってもなかなか難しい面があります。
K:色々と努力している企業に対しては、表彰などにより一定の評価を与えてその活動を盛り立てていくことも大切だと思います。

−−実際に表彰制度とかあるのでしょうか?
K:環境省としてもやっているのはありますし、企業ですとイオン環境財団(※7)が「生物多様性日本アワード」という表彰制度を作っていて、貢献したところに光りを当ててあげようという取組も行われています。

−−ところで今日本の政権、リーダーはコロコロ変わっています。そんななかで政府がやっている生物多様性国家戦略って進むのでしょうか?
K:生物多様性の重要性はどの政党が政権とっても変わりませんので、進まなくなるということはないです。大きな流れは変わらないと思います。


生物多様性と言う言葉を浸透させ、啓蒙させていくことが重要

−−徐々に浸透しつつある生物多様性という言葉ですが、今後どのように啓蒙していこうとしていますか?
K:生物多様性は難しいテーマですので、普及啓発の方法に関しては我々も考えないといけないことがたくさんあると思っています。
 環境省には全国各地に地方環境事務所があります。そこで地域の人と一緒に考えて伝えて行くというやり方もあると思います。

−−観光地にあるようなビジターセンターとかもその役割を担っていますね?
K:そうですね。実際に現場に足を運んでもらい、そういった施設の人から話を聞いた頂くことも重要だと思います。

−−あとはウェブ以外に新聞の折り込みなどで、生物多様性の重要性をもっと目に付くところに出して広げていってもらいたいですね。
K:そうですね。多くの人の目に触れるものとして、イベントなども開催しています。環境省独自で開催するイベント以外に、他者から声がかかった場合にはタイアップを組んで実施したりしています。

−−生物多様性を守っていくには持続可能な社会形成が大切になると思います。持続可能な社会形成のためには、前出の「三つのR」というものを実践していこうという動きもあります。しかしリサイクルひとつをとってみても意外と面倒臭かったりして「三つのR」はハードルが高い一面もあります。この「三つのR」を社会に浸透させるにはどうすればいいのでしょうか?
K:みなさんの生活の中での「三つのR」も国家レベルの生物多様性に関することも、まずはできるところからやるということが一番よいと思います。いきなり全てをやるということは難しいですよね。簡単に出来るところからやってもらえればと思います。

−−「三つのR」は私も広めていきたい言葉でもあります。また私もゴミの分別などを含めて、一般の人にはやれることを広めていきたいと思っていますし、講演やセミナーのなかでも広めていきたいと思っています。
K:そうですね。まずは何も関心の無い人に対して身近なところからキッカケを与えてあげることが重要だと思います。そうすれば普段の私たちの生活がいかに自然と繋がっているというのに気付いてもらえるでしょう。

−−ありがとうございました。

※ 1 生物多様性条約の締結を機会に、人間活動による開発、里地里山の不足、外来種問題などを課題にしつつ、持続可能な社会形成のために打ち出した戦略。大体5年ごとに見直しが行われている。
※ 2 1992年にブラジルのリオデジャネイロで行われた地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)において採択。その後1993年に日本も締結。
※ 3 生物多様性条約締結国会議のことで第10回目が日本の名古屋で開催された。
※ 4 俗に言う「リサイクル」「リデュース」「リユース」のこと。人によっては四つ目、五つ目を加えることもある。
※ 5 生物多様性には三つの多様性があり、生態系の多様性ではサンゴ礁、砂漠など多様な自然形態があると、種の多様性では地球上に多くの生物種が存在すると、遺伝子の多様性では貝類のように同じアサリでも貝殻の模様が違うということを唱っている。
※ 6 味の素は平成24年より「味の素グループ生物多様性行動指針」を制定し、資源が持続的に安定供給できるよう様々な努力をしている企業のひとつ。森林資源に関してはWWFジャパンと協力し、また水産資源に関しては国際水産資源研究所とともにカツオの調査などをおこなっている。
※ 7 ジャスコ創業者でイオン元会長の岡田卓也氏の考えのもと1990年に設立され、各地で植樹などの活動をしている。