中越パルプ工業取材レポート

[ 取材レポート ]

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中越パルプ工業株式会社という製紙会社をご存知でしょうか?中堅の製紙会社ですが、大手がやらないことを事業のなかでやっていて、その功績は環境白書などでも紹介されています。
毎年12月にお台場のビッグサイトで開催されている「エコプロダクツ」にもブース出展している企業でもあります。
さて今回はみなさんにこの企業がどのようなことをやっているのかをご紹介したいと思い、東京本社営業管理本部の西村修さんにお話しをうかがうことが出来ました。


竹で紙を作る?その経緯は?

——環境省の生物多様性国家戦略室を訪れた時、御社の存在を知ることができました。そこで厄介者の竹を有効利用している企業だと教えてもらいました。
西村(以下N):竹紙自体はそれほど大きな収益になるようなものではありませんが、今では会社として事業になるよう取り組んでいます。

——竹で紙が出来上がるとは想像もしていなかったです。
N:木材でなくても、竹でも草でも紙を作ることはできます。木材は1年を通して大量に集荷しやすいため、製紙原料に適しています。それに対し、ほかの植物は季節や量に制限があるため、安定的に得ることができません。また竹は空洞になっている部分がありますしとても硬いので、同じトラック1台に積んで持ってきても木材に比べると紙になる量というのが少ないです。よって竹は良い素材ではありません。

——そんな良い素材ではない竹を使ってなぜ紙を作ろうとしたのですか?
N:弊社は鹿児島にも工場があるのですが、その地域の木材集荷担当責任者が1998年から始めました。それは別に会社からの命令されたのではなく、自分で「地域のためにやってみよう」と始めた事業です。
鹿児島県というのは全国で最も竹林面積が大きく、タケノコ生産も盛んです。タケノコ農家は、タケノコの生産量を上げるために、5年生の竹を伐採して活性化します。しかし伐採した竹は土に戻るまでに5年ほどかかるため、伐採された竹の処分に悩まされていました。「竹を紙の原料に使ってくれないか」と当時の担当者が相談を受け、本来紙の原料には向かない竹の製紙原料化に挑戦しました。
24時間365日操業することで利益を生む製紙産業では、効率が重視されるため、同業他社が竹を原料にして紙を作ることは考えにくいです。まさに弊社のオリジナル製品であります。
このように竹紙生産は一社員の意識によって始まったのです。
(※竹は根が浅く雨などによって土砂崩れを起こしやすい要因とされ、放置竹林は大きな問題になっている)

中堅企業だからできることがある

——会社主導で始めたわけではないのですか?
N:そうです。それは会社でやろうとした事業ではなく、一個人が自分の職責の中で始めたことなのです。地域の人たちが放置された竹がたくさんあって困っているから始めたことなのです。このような放置竹林の問題はたくさん聞きますが、行政に任せるのでは無くて自分で何とかしようと決めて実行したことに、私は共感しました。
そして私もその社員の姿勢に魅力を感じました。こんなに素晴らしいことをやっているのなら、それを世間一般に知ってもらうことで良いことが起こるのではないだろうかと思い、今私はそれをやっているところです。そして私が伝えることによって、一人でも多くの人が感化されていけばいいかなと思っています。

——世間に認知されるよう今活動されていますが、始めた当初はどれくらいの竹を集荷していたのですか? 
N:1998年から始まり、2004年頃以降は年間約8,000トンで安定的に集荷していました。

——8,000トンという量にピンとこないのですが。
西村:そうですよね。ところが、さらに2009年頃から当時の社長が、「これは良いことなのだから、どんどん竹を集めて、どんどん紙を売ればいい」と言うことになりました。ひとりの社員が始めたことが、を動かすまでになり、今では年間2万トンの竹を集荷するようになりました。
年間2万トンの竹は、伐採した形状で75万本相当です。1日に換算すると2000本以上あります。仮に竹林整備する場合に、1カ所から100~200本の竹が間伐されるとするならば、毎日10~20か所に相当します。
放置竹林問題の解決策のひとつは、持続的に大量の竹を使うことです。竹を紙の原料にしたことは、大きな前進と評価されています。

——一企業が日本の問題である放置竹林を解決しようとしているのは素晴らしいですね。
ところで竹は日本全国から集めているのですか?
N:大体九州全域からになります。持ってきてくれれば弊社に木材チップを納入するチップ工場が買い取ります。普通なら邪魔な物にはお金を出して処分をするが当たり前だと思うのですが、弊社ではそれを逆に買い取っているのです。竹林が多い場所は過疎地が多いわけですから、そんな地域にとっても新たなお金が生まれて良いことだと思います。

——竹紙は日本以外の国でも生産されているのですか?
N:中国やタイでも竹パルプは生産されていますが、恐らく木材の代替えとして竹が存在していると思います。しかし我々は木材の代替えとして竹を使っているわけではありません。木材は上手に利用した方が良いです。それとは別に使い道に困っている竹も使えるのなら使った方が良いと思っています。

製紙業は環境負荷産業。それは過去の話

——製紙業は環境に負荷をかけているという印象が強いですよね?
N:確かに以前は、特に高度成長期は田子の浦のヘドロの問題などがありました。でも近年では環境の優等生です。

例えば木材からパルプにするのにセルロースというものを取り出すのですが、残ったものは捨てるのではなく、原油の代わりに燃料として再利用しています。
最近世の中はペーパーレスの動きがあります。その裏には森林資源をどんどん伐採しているという理由もあるようですが、実際はそうではありません。我々が使っている木材は柱などを取り出した後の残った部分を使っています。逆にペーパーレスを推し進めてタブレットを使わせようとする動きもありますが、その製品を作るのにどんな方法でレアメタルを採取し、どれだけの化石資源を使っているのでしょう?また、そのタブレットやスマホは、数年で買い替えていませんか?
今の製紙会社は捨てていたものを再利用している企業であります。

——環境負荷の小さい産業だというのを知らない人もいると思います。また森林伐採などで環境保護団体などに何かクレームを付けられたことはありますか?
N:森林資源のトレーサビリティも重視していますので、滅多にありません。また、環境保護団体は最初に大手に物を言うので、我々のような中堅企業に直接意見されることは少ないです。
木材は成長する資源なので、管理された森林で計画的に伐採することで、持続可能な調達が実現します。また弊社のように森林保全団体との取り組みがあると、広く意見交換も可能になります。
もちろん紙にするために森林を一気に伐採することは私も反対です。私は森林にしてもサンゴにしても、一度失ったら取り返しつかないものになると考えています。失われた生態系による将来への悪影響を、もっと知るべきでしょう。

——では今後の竹紙事業の目標を教えてください。
N:竹紙の事業そのものは、ごく小さな規模です。社内でも消極的な意見もあるくらいの事業ですが、それは短期的な視点に過ぎません。竹紙の活動に共感する人たちの多くは、感性が鋭く知識の高い人たちです。でもそう言った人たちが味方に付けば、今後、中越パルプ工業の存在価値は高まり、ビジネス環境も良くなるはずです。そのように啓蒙していくのが私の役割ですし、今後の目標でもあります。